LINEスマートシティ推進パートナープログラム
2023年度 第2回セミナー
~LINEの防災活用~ レポート

2023年8月8日開催

1. 開催概要

 LINE株式会社は、「LINEスマートシティ推進パートナープログラム」に参加している自治体様向けのオンラインセミナーを2023年8月8日に開催いたしました。
第2回となる今回は、LINE株式会社CSR戦略室の高階より、防災DXの基礎とLINEを使った事例の紹介を、また「人と防災未来センター」研究部長の行司高博氏をゲストにお迎えし、自治体における防災DXの現状と将来についてお話しいただきました。セミナー参加者限定で公開させていただいた情報もございますので、抜粋版を掲載させていただきます。

災害時の明暗を分ける防災DX~防災分野でのLINE活用事例

LINE株式会社CSR戦略室 高階經啓

 

1.災害時、何が起こるか想像してみる
  次から次へと発生する問題には、備えがなければ対応しきれない

 

大災害の時に何が起きるのか、そこで防災DXはどう役に立つのか、そもそも自治体の防災DXとは何か、なぜ取り組む必要があるのかというような基礎の話をさせていただきます。 大きな災害が起こった時、もしも備えがなかったらどんなことが起こるのかを想像してみてください。

 

 

防災・減災の基本ですが、災害が起きてからでは手遅れ。最悪のシナリオを想定して平時のうちに備えておくことが極めて重要です。

 

[自分と自分の家族の安全確保]大災害時、自分の命や家族の命は大丈夫か、けがをしてないか。

 

[出勤の可否]自分や家族の身になにかあったり、家や地域全体が大きく被災していたら出勤は困難です。

 

[職員として稼働できるまでの時間]公共交通機関はストップしており、火災や建物の倒壊で道路もいつもどおりに移動できるとは限りません。庁舎に参集できる人とリモート対応する人などのルールを事前に決めておかなければうまく回りません。

 

[役所・役場の被災程度]庁舎そのものが被災して跡形もなくなってしまう事例もありました。機器の損傷や、停電・断水・ガス停止・電話の輻輳・通信トラブルといったライフライン途絶など、建物はあっても機能が失われていることもあります。その時どうするのかというルールも事前に決めておくしかありません。

 

[地域全体の被害の全貌把握]迅速な被災者支援や復旧・復興のためには、被害の全貌を把握する必要がありますが、職員が人力で把握する事はまず不可能です。そのような状況の中でも次から次にいろんなことの決断を迫られることになります。事前にいろいろな対策を考えておくことが必要です。

 

[次から次に対応しなくてはならないことが発生]例えば、火災の消火活動。水が出ないかもしれないし、消防車が道路を通れないかもしれないし、人員が足りないかもしれない。住民からの救助要請や、問い合わせも数が多すぎたり、スキル面で応えられなかったりもします。避難所の開設、受付、エリア分け、要支援者やペットを連れてきた人への対応、水・飲料、食物、衣類、医薬品、応急処置、ご遺体の収容スペース、土葬などの仮埋葬、火葬や埋葬の手配、外部から支援者や政府の要人の視察への対応など、正しいかどうかという判断ができないままさばき続けることになります。災害対応体験者の方は、その状況を「修羅場」「地獄絵図」というふうに表現しています。

 

2.防災DXで「修羅場」を軽減
  防災DXの3つのメリットとLINEを活用した5つの事例

 

これらは、防災DXを使った事前の備えで軽減できることもあります。 防災DXの3つのメリットを挙げてみました。

 

①職員の余計な負担を軽減。

②状況把握と対応がより精確かつ迅速に。

③住民の不満を軽減。

 

人力を使わずに済むとことはデジタルに任せ、人でなければできないことに集中することで、住民の満足度を上げることにつながっていく。これがすべてとは思いませんが、このあたりは防災DXの分かりやすいメリットだと思います。

具体例を5つ挙げます。


1つ目、職員間の安否確認の迅速化。
神奈川県・座間市における防災訓練では、LINEを活用して安否返答時に職員に自分が配備されたチーム名を選択してもらったところ、登録作業にかかる負担を軽減しつつ、セグメント配信によって必要な情報は必要な職員だけに送信できる体制を築けたこと、職員からの返答結果はすぐグラフ化でき、職員の安否状況や参集状況を迅速に上長に上げられるようになったとあります。

出典:自治体通信ONLINE(2023年6月12日) https://www.jt-tsushin.jp/articles/case/jt50_bot-express

 

2つ目は、住民から情報収集し、各地の被害状況を瞬時に把握できること。

 

 

この図は、2020年に神戸市で実施されたチャットボットを使った実証実験の結果です。建物倒壊、火災、水道トラブルなど、各地にいる住民や職員から続々と届く被災情報により、災害対策本部ではいながらにして災害被害状況のマップが手に入り、迅速で的確な判断につながります。

出典:LINEウェブページ、取り組み、防災・減災 https://linecorp.com/ja/csr/activity/disasterprevention

 

3つ目は、市民からの問い合わせに、チャットボットで対応すること。
2019年の台風15号と19号の実災害時に、千葉県で「千葉県災害2019」というLINE公式アカウントを開設し、AI防災チャットボットが市民からの問い合わせに対応し約40日間で約9000件の問い合わせに自動回答しました。もしこれがなかったら職員が回答しなくてはいけなかった9000件分が軽減していることになります。

出展:総務省(2021年12月1日) https://www.soumu.go.jp/main_content/000783476.pdf

 

4つ目は、避難所運営の効率化。
2022年4月、福井県で実装していただいた事例です。災害時に住民が各市町の避難所に入る際の手続きをLINE公式アカウント上でできるシステムで、住民が氏名や住所、新型コロナウイルス対策に必要な健康状態などをスマートフォンで入力すれば、市町や県は避難所ごとの人数を即座に把握できます。同時に、避難者への一斉連絡もスムーズになります。

出典:中日新聞(2022年5月1日) https://www.chunichi.co.jp/article/462954

 

最後、5つ目は、ボランティアなど外部からの支援者対応効率化。
熊本県の人吉市で2020年の実災害時に導入された「豪雨災害ボランティア受付システム」の活用事例になります。災害ボランティアに来た人がLINE公式アカウントを友だちに追加するとボランティア登録され、各ボランティアセンターでExcel(エクセル)の名簿が即座にでき、参加回数や住所、電話番号などを確認することができます。ボランティアセンターでは、しばしば受付の長蛇の列ができ、自分の順番が来たら「今日の作業はもうありません」と帰されるようなことも実際に起きています。こういったトラブルなどを軽減できるということです。

出典:PRTimes(2020年8月17日) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000046.000032386.html

 

大災害後に、「まさか私たちがこんな目に遭うなんて」というような話をよく聞きます。そのまさかの時の修羅場に直面してぼうぜんとするのではなく、平時から備えて、ご自分とご家族と、住民の皆さんの命と財産を最大限守り抜く手段として、防災DXをご活用いただければ幸いです。

 

自治体防災DXの進むべき方向性
〜自治体の防災情報システムの運用状況調査からみえてきたこと

人と未来防災センター 研究部長・防災DX官民共創協議会 自治体部会長 行司高博氏

 

1.九州北部と秋田の災害現場視察より
  実際の災害現場ではいまはまだDXよりもマンパワー頼みのところが多い

 

先月(2023年7月)、九州北部から秋田で災害があって、それぞれの現場に行ってきました。

熊本の益城町では、お寺が土砂災害で崩れたり、川や田んぼが被害を受けました。久留米の田主丸地区では、大きな土砂災害があり、川でも道でもない家の間を流れるように水の抜け道ができてしまっていました。がれきなどが道路にもいっぱいで、危険なためボランティアもなかなか現地に入れていませんでした。

 

 

ゴミ集積場では、ゴミを捨てに来られる住民の方の軽トラックが列をなしていて、1時間ぐらい待つと言われていました。その前は2時間待ちだったという話でした。

土砂災害があった地区の避難所にも行きました。先ほどスマートフォンを使って避難所の管理という話がありましたが、避難所におられる方は高齢の方が多く、スマートフォンが使えるのかどうかということもDX化という流れのなかでの課題かと思います。 また、秋田県の五城目町では、1週間経っても水が出ないというような状態が続いたりしていました。 実際に災害が起こると本当バタバタになってしまうし、DXどころではなく、これまでと同じようにマンパワーで解決しようというような動きがどうしても強くなってしまいます。そんななかで、公務に携わる自治体の方が使えるDXをいかに取り入れていくのかが重要だと考えています。

 

2.国の次期総合防災情報システムと、防災DX官民共創協議会
自治体と民間業者がデータ連携をして防災に役立つ仕組みを作っていく

 

2022年末キックオフした「防災DX官民共創協議会」が2023年4月に正式に発足しました。私も縁あって自治体部会の責任者をやらせていただいています。第2回全体会合で、主に民間事業者の方に向けて、次のような話をさせていただきました。

※防災DX官民共創協議会 https://ppp-bosai-dx.jp/

 

防災DXをやろうとした時に、「自治体の人員不足、予算不足、スキル不足が問題だ」とよく言われますが、民間サービスを導入するにあたって自治体が考えている課題は別の所にあります。 まず、独立したシステムが増えれば増えるほど管理できなくなってしまいます。そこが一番の課題だと思っています。また、LGWAN(エルジーワン)という非常に守られた、堅い世界で役所のシステムはやってきています。外部から接続させることについて、セキュリティ上の不安もありますし、個人情報について自治体はとても慎重です。

※LGWAN:総合行政ネットワーク https://www.j-lis.go.jp/lgwan/cms_15.html

 

それから、国は、実証実験はいろいろやらせてくれるけれども、実装部分へのサポートがない。ランニングコストがついていかない。また、民間事業者さんからいろいろなサービスのお話を受けるけれど、規模に合っていないものを持って来られることが多い。こういった背景がわからない限りは、民間事業者と自治体って、そもそも話がなかなかかみ合わないものです。

防災のシステムは、だいたい次の4種類くらいに分けることができます。

 

① 総合的・基本的な防災情報システム。すべての都道府県に入っています。災害対応工程管理のシステムを入れているところもあります。

② 被災者支援の仕組み。これは主に市町村が導入されているものです。

③ 道路や河川といった現場の状況を知るための仕組み。

④ 市民への情報伝達の仕組み。

 

 

基本的な防災情報システム、被災者支援や現場のシステム(図の青色の部分)があって、これらのシステムはだいたい大手ベンダーさんのパッケージで作られています。それに市民に伝達していく部分(ピンク色の部分)の機能が加わってきています。これが基本形です。

ここに、いわゆるサブシステムを追加する形(黄色の部分)で民間のシステムを取り入れていくとなると、基本形のシステムをいかに拡張していくか、いかに追加のシステムをアドオンしていくのかというのが、ひとつのやり方になってきます。民間事業者は新しいサブシステムを売り込んでくるけれども、今あるシステムとうまくつながらないと、なかなか取り入れられません。加えて、LGWANの世界でまとまっているので、外部システムの接続はなかなか難しいですよという話がどうしても生じてしまいます。

 

それからもうひとつ考えてほしい点があります。
防災に関しては、市町村と都道府県で役割が大きく異なります。基本的に実際に災害現場の情報を収集して、その情報を管理し被災者に対応するのは市町村の仕事です。都道府県は、それを情報集約して国に報告するのが主な仕事になってきます。だから、市町村と都道府県では、防災への向き合い方も違えばシステムも違います。
昨年度(2022年度)、人と防災未来センターで全国の都道府県に防災情報システムの調査し、都道府県と市町村とのシステムをめぐる関係性に課題があることが分かりました。市町村は自分たちで防災情報を管理しながら、都道府県へ報告を入れるために都道府県のシステムにわざわざログインして(同じ情報を)入力しないといけないという二重入力問題が生じていることがよくあげられます。

※人と防災未来センター https://www.dri.ne.jp/

 

一方、大きな流れに目をやると、国は今、各省庁を貫く新しい防災システムを作ろうとしています。各省庁から集めた情報を地図上で一元化できるようなシステムで、2024年度からシステムの運用を開始する予定です。
この「次期総合防災情報システム」では、自動収集できるようにするとか、地図情報を自動で更新して見られるようにするとしています。また、国の省庁から、次には都道府県も連接させ、拡張していく予定です。市町村まで拡張されるのはかなり先になると思いますが。
この仕組みは、SIP4D(エスアイピーフォーディ)という国の研究機関である防災科研がやっている、いわゆる防災情報のパイプラインの技術を活用するような形で作られています。

※防災科研 https://www.bosai.go.jp/

※SIP4D:基盤的防災情報流通ネットワーク https://www.sip4d.jp/

 

また、政治の方でも力を入れておられまして、自民党で防災DXプロジェクトチームというのができました。国のデジタルプラットフォームができたら、それを利用して民間と国とでデータを共有しながら、民間はそれを使っていいアプリ・サービスを自治体や住民に提供していく。民間と公共がうまくつながる仕組みをめざそうという発想でつくられています。

そうした中で登場したのが先ほども申しました「防災DX官民共創協議会」です。
自治体部会では、都道府県と市町村でシステム上なかなかうまくいかない部分を、なんとか解消できるような橋渡しになればと思っています。各自治体がバラバラに入れている防災システムはそれはそれで容認しながらも、国がめざすシステム的に一元化していきたいという方向性といかに整合性を取ってつないでいくのかということをお手伝いできればと考えています。国と自治体、自治体と自治体、自治体と民間事業者、それぞれの連接を意識した取り組みにしたいと思っています。
自治体部会は自由に参加できて、官民連携などの枠組みに外れる場合であっても、自治体の課題だけを主に言う会議でもいいので、月1回の情報交換などをしていきたいと動いています。よければ、ぜひ防災DX官民共創協議会・自治体部会にご参加ください。防災の担当でない方でも構いません。

 

最後になりますが、「ぼうさいこくたい」という防災のイベントが、今年(2023年)は9月17日に横浜で開催されます。その中で、都道府県の防災情報システム調査や国の動きなどを発表する予定ですので、こちらもぜひご参加ください。
以上となります。ありがとうございました。

※ぼうさいこくたい2023  https://bosai-kokutai.jp/2023/

 

 

災害時のデマについて自治体の効果的な対応方法は? 質疑応答より
SNSなどを利用し、ふだんから住民との信頼関係を築いておくことが大事

Q.災害時の活用に加え、近年問題になっている災害時のデマについて、自治体がどのように対応していくべきか悩んでいます。効果的な対策や対応方法についてご存じであればご教示ください。

 

LINE米倉:
CSR戦略室の米倉です。髙階と同じく防災を担当しています。災害時にデマやフェイクニュースを悪意があって出す人もいますが、時間が経過して状況が変わって古くなった情報が拡散してしまうこともあります。例えば、倒木があるという情報を出しても、対応されて今はもうないというようなことです。このように、一概にデマとしてみなしてしまうのは難しいケースもあります。
LINEみらい財団では、子どもたちを対象に、「SNSで情報収集・発信するときはどういうことに注意したらいいの?」というようなことを「情報防災訓練」という教材の提供やオンライン出前授業を通して啓発する活動を行なっています。情報収集時のキーワードは「だいふく」(その情報は「だ」れが、「い」つ言ったことなのか、「ふく」数(複数)のソースを確認しよう)、情報発信時のキーワード「あまい」(「あ」んぜんを確認した上で「ま」違った情報にならないか、「い」ち(位置)情報を上手に使おう)といったことを伝えています。LINEみらい財団のサイトで教材のダウンロードなどもできるようになっておりますので、ご興味ありましたらぜひご覧になってください。

※LINEみらい財団 / 情報防災教育の取り組み https://line-mirai.org/ja/activities/activities-prevention

 

高階:
熊本地震の時に「動物園のライオンが逃げた」というデマのツイートがありました。その時に熊本市長さんが早い段階で「熊本市から発表する震災関連の情報は、熊本市ホームページの情報が公式なものです。これ以外の発表は熊本市からの発表ではありませんのでご注意ください」と迅速に対応されていました。さらに、「デマにご注意」として「未確認情報をむやみにリツイートしないでください」ということも発信されてました。こうした冷静な振る舞い方を共有するのが、まずはいいのかなと思います。

 

行司:
秋田で水害があった時に、秋田市長さんが毎日のようにYouTube動画を上げていました。日々変わる被災者の気持ちを考えながら市長が訴えるという形です。顔の見える形で出していくとか、公式に出していくことが、ある意味ではその反対のデマ対策にもなると思います。

 

LINE米倉:
熊本市の大西市長が、日頃から市民のつながりや地域力の強化は欠かせないということで、「まちづくりセンター」という部署を作って、LINE公式アカウントを使って情報発信のセグメント配信をやっていらっしゃいます。地域を学区ごと、熊本市だけでも百いくつのセグメントに分けて、日頃の電子回覧板的な情報発信から、災害時には協力してやっていこうという活動につなげている。こういうのも、平時からの活用という面も含めてひとつの事例だと思います。

 

高階:
今のセグメントの話に関して言うと、やっぱり自分に関係ない話がどんどん降ってくると、それを見るのもいやになっちゃうっていう問題もあります。そういう意味でも、この情報は私に届いているんだって感じさせるっていうことが、大事なポイントかなと思います。

 


 

※「LINEスマートシティ推進パートナープログラム」は、自治体を対象とした、DX推進のための情報収集、情報共有、事業創出を目的としたコミュニティです。今後もセミナーを開催していきますので、自治体の皆様はぜひご参加ください。